・・・人間平等の思想こそが民主主義の基本精神だといわれる。
我が新憲法は、その14条に、全て国民は法の下に平等であることを保証している。すなわち総理大臣だろうが、資本家だろうが、地主だろうが、我より上のものでもなく、下のものでもない。法の目から見た、人間としての値打ちは全く平等である。この精神がしっかりつかめさえすれば、誰でも、自分で自分を卑しんだり、自分で自分を軽んじたりはしない。我こそ、自分自身の権利義務の主体であるという自尊心が、むくむくと湧き上がって来るであろう。自尊心がある人は権力に屈しない。自尊心のある人は金銭に迷わされない。自尊心があれば、投票も売らない、乞食もしない、闇もしない。批判的精神のないことが、日本人に共通の欠点であるとは、敗戦後の日本を観察した外国人の定評であるが、その原因は、日本人が自尊心に欠けていることにある。
今までは主権は天皇にありとせられたが、新憲法では主権は国民にありと宣言した。国家の主権は分割することはできないから、主権在民といっても、国民の一人一人が何千何万分の一の主権の切れ端を持っているというわけでは勿論ないが、国民すなわちお互いめいめいは、国家主権の一細胞であるという意味で、何人も平等な、尊厳なる人間である。・・・自尊心があれば、上からの命令または指令に盲従はしない。必ずその命令なり指令なりを一応批判して、しかる後にそれに服従すべきか否かを決するに相違ない。権威を外に求めずして、我の内にある権威に目覚めよ。げに「神は全ての人間を平等につくり給うた」のである。
民主主義の基本精神といわれる平等思想を鼓吹して、国民の自尊心を喚起することは、民主教育の大きな役目であると思う。
尾崎行雄『民主政治読本』(昭和2年)、『尾崎咢堂全集第十巻』126頁より。




