これまでの日本の教育は、国家と個人の関係における道徳の鼓吹に重きを置いて、社会と個人との関係における道徳の鼓吹を怠った。国家に対するつとめは教えたが、社会に対するつとめはあまり教えなかった。その結果、共存・共助・共栄というような社会道徳が発達しなかったのであろう。私は国境を限界とする愛国心で行き止まりになっている日本人の道徳観を、もう一歩進めて、国境を越えた人類愛の境地にまで延ばしていくことが、これからの民主教育の在り方だと思う。
・・・私は民主主義の使命は、正義観念の強い国民と、寛容な国民性をつくりあげることにあると思う。
「国家のため」という圧力に押しつぶされて、国家の悪を見逃してはいけない。いやしくも、正義人道に反する方向に行きそうな場合は、国家にだろうが、親にだろうが、夫にだろうが、敢然反対して、これらを正道に戻すような人間をつくらねばならぬ。・・・そしてそういう人こそが世界中から尊敬せられ、愛せられる人である。
尾崎行雄『民主政治読本』(昭和22年)、『尾崎咢堂全集第十巻』129頁より




